前回記事ひさしぶりのテュークスビュリーで、友人を訪ねるオットーの車に同乗させてもらったと書きました。
あの日オットーが訪ねたのは、友人のベンさん。
私と結婚する前からですから、かれこれ40年くらいの長きにわたって定期的に訪れてきた方です。
ベンさんについては、3年前の夏の記事ちょこっとテュークスビュリーと住み込みの再開にも書いています。
* * *
オットーが訪ねた友人のベンさん(仮名)は、友人といっても90歳を超えていて、オットーの親の年代の方です。
ず~っと昔ベンさんは、オットー(私と出会う前)のイラストをどこかで見て、「絵の描き方を教えて欲しい」と連絡してきたそうです。
それでオットーが有償で、何度かチェルトナムからテュークスビュリーのベンさん宅を訪ねて絵を教えるようになりました。
でも一年を過ぎる頃には2人は良い友達になったので、オットーはその後は無償でベンさんを訪ねるようになったそうです。
しばらくするとベンさんの興味は絵から写真撮影やコンピューターに移り、ベンさんが絵筆を握ることはなくなり、
二人はベンさんのコンピューターを前に、もっぱら時事問題やら世間話やらのおしゃべりをするようになりました。
オットーがベンさんと会ったのは、コロナ禍以前が最後だったから、約一年半ぶり。
実はベンさん、先月奥様を亡くされたのです。
奥様はベンさんより10歳もお若かったんですが、癌だったそうです。
奥様を亡くされて2週間ほどは本当に参り、何をする気力もなく食事も満足に取れなかったとか・・・
ようやく元気が出てきたので、オットーに連絡してきて訪問を要請したのでした。
昔の男性なので家事は不得手のベンさんは、四苦八苦しながらも頑張っている模様とのこと。
でも10日ほど前に庭で転倒してしまい、頭を切って出血し、車で20分ほど離れたチェルトナムに住む息子さんに来てもらったそうです。
けっこう出血したようなので、そういうときは救急車を呼ぶようオットーが忠告したら、息子さんにもそう言われたそう。
ちなみにベンさんは、義母と同様食料品の買物は、息子さんに代行してもらっています。
オットーによるとベンさんはかなり動きが緩慢になり、バランスを崩しやすく、足元もおぼつかないので、
「独居で自立生活を続けることが無理になるのは時間の問題だろう」と・・・。
そうなんですよね。結婚し長年添いつづけても、最後はどちらか一人が必ず残されます。
一人になればもう助け合う相手はいませんから、自分で自分の面倒をみるのが不可能になった場合は、
家族に頼るか、外注(=介護ヘルパーを依頼)するか、それとも介護施設に入るか・・・
* * *
3年3ヶ月後の現在、ベンさんの状況は、残念ながら、さらに厳しいものになってしまっています。
奥様に先立たれ、独居になってしまったベンさん。
お子さんは二人、オットーと同年代の息子さんと娘さんがおられたのですが、
何とお酒好きだった息子さんが、去年の年明けに、肝臓の悪化で急死してしまいました。
息子さんは一度結婚したものの離婚し、その後はチェルトナムで一人暮らしをしていました。
息子さんの三人の子供さんは、皆成人して家を離れています。
息子さんが、車の運転をあきらめたベンさんをサポートし、買物や病院などへの付き添いをしていたのですが・・・
いっぽうの娘さんですが、私より2歳下で先月還暦を迎えたというその娘さんは、学習障害があります。
50歳を過ぎるまで両親と同居し、乗馬や料理や手芸教室に通って生活を満喫していたようでした。
しかし両親であるベンさんと奥様は、自分たち亡きあとの娘さんの将来を考えたのでしょう、5年ほど前に
福祉課に相談のうえ、娘さんをタウン・センターに近いフラットへと引越しさせ、独立生活を始めさせました。
もちろん完全に独立生活というわけではなくて、週に何度かサポート・ワーカーが訪れ、
日常生活におけるあらゆる面でサポートを受けています。
娘さんはその後も現在に至るまで、定期的にバスを利用して両親宅を訪れ、時には泊まっていくこともあるそうです。
息子さん亡きあと、ベンさんはヘルパーさんを週3回、一時間ずつだけ雇うようになりました。
介護サービス事業所経由ではなく、人づてに知って個人的に契約したヘルパーさんでした。
その方が費用が安くて済みますしね。
ところが先週オットーが訪ねると、ベンさんはほとほと困り果てた状態にあったそうです。
「アニー(ヘルパーさん:仮名)が、母親が倒れたからと、ここ一週間も来れずにいるんだ・・・」 と。
オットーが 「じゃあ介護サービス事業所に電話してヘルパーさんを依頼したら?」 と言うと、
「ああいう所は何でもかんでもメールでやりとりしたがるが、ワシはもうメールはできない」 と。
そうなんです、90代半ばのベンさんは、もう一年以上も、コンピューターに触っていないそうで・・・
携帯電話はスマホでなく通話とテキストのみのやつだし、固定電話は 「なぜか使えなくなっている」 と・・・。
固定電話はコードレスですが、受話器に電池を入れるタイプのものなので、電池が切れているのでは?と考えた
オットーが、タウンをぶらついていた私に 「ベンが必要だから、もし見かけたら、充電できるタイプの電池を買って欲しい」 と
メッセージを送ってきました。グーグル・マップで探してみたところ、好都合なことに商店街に電器屋さんがあったので、購入。
(代金はあとでベンさんからいただきました。)
(充電タイプの電池って、そういえばもうずいぶん使っていません。約12ポンド、2350円・・・ たかっ! )
町歩きを終えた私は、カフェでひと休みしたあと、オットーに拾われました。本来ならそのまま帰途につくところでしたが、
電池を届ける必要があったので、ベンさんのお宅に寄り、私もご挨拶。私がベンさんに最後にお会いしたのは、
15年くらい前だったでしょうか。ベンさんはすっかり痩せてしまっていました。もともと細い人でしたが、さらに。
話すスピードもそれはゆっくりで、入れ歯が合わないのか言葉もあまり明瞭ではなくて、失礼な話ですが、
「老衰」 とはこういうことなのだと、現実を見せつけられた思いがしました。
オットーが受話器の電池を交換し、受話器のスタンドのコードもチェックしたところ、電話は使えるようになり、ホッ。
ベンさんのヘルパーさんですが、オットーが自分のスマホである介護サービス事業所に電話し、
ベンさんの状況を説明し、サービス開始を依頼したそうです。
「ベンさんへの連絡には一切メールは使わず、すべて電話でのみお願いします」 とも強調しました。
事業所はのちほどベンさんに電話し、サービス開始にあたってのアセスメントのための
ベンさん宅訪問日時を調整してくれる、とのことでした。
(それが先週木曜日のことで、オットーは日曜日と今日ベンさんに 「アセスメントはどうだった?」 と訊く
テキスト・メッセージを送りましたが、まだ返事はありません。ちなみにベンさんは、詐欺電話を警戒する
あまり、電話には出ません。普段のオットーとのやりとりは、テキストのみです。)
ベンさんは足元がかなり覚束なくなっていて、屋内を歩くときは車輪つきトロリーを押して移動しています。
「もう三日も誰にも会っていない」 と言っていたベンさん、もし屋内で倒れて自力では起き上がれなくなったら、
携帯電話を常時携帯していない限り、にっちもさっちもいかなくなりそう・・・
ベンさんの亡くなられた息子さんの元奥様は、どこにお住まいか知りませんが、ベンさんにエア・フライヤーを
去年のクリスマスにプレゼントしてくれたそうです。それからお孫さんのうちの一人が、2週間に一度くらい、
ベンさんを訪ねてあれこれをサポートしてくれるそう。でも私の目には、ベンさんは毎日ヘルパーさんに来てもらうか、
いっそのこと介護施設に入居した方が安心安全と映りました。
ベンさんもそれは自覚しているようで、オットーに、「介護施設について調べてみた」 と話したそうです。
ベンさんは以前、商店を経営していたので、資産は平均以上にあるんですよ?でも自分のためにはなかなか
お金を使おうとしません。娘さんに財産を残してやりたいし、サポートに来てくれる孫息子さんにも、
家購入の頭金を出してやりたいから、と。
今回オットーが 「ヘルパーさんには(週三回でなく)毎日来てもらった方がいい状況になっていると思うよ?」 と
言ってみたところ、ベンさんは同意したそうなので、一日も早くそうなることを祈っています。
加齢、老化、老衰は、誰にも避けられない、誰にもやってくることですからね・・・
ベンさんを見ていて、オットーの将来が心配になってしまいました。
長寿の家系に生まれたオットーは私より長生きしてくれるはずなので、私は独居になる予定はなく安心ですが、
もしオットーが、ベンさんの立場になってしまったら・・・
オットーの性格的に、娘に救いを求めることはしそうにないので、最悪、孤独死とか・・・?
さらに悪いことには、思いがけずオットーが先に逝ってしまって、あとに私が残されたら・・・?
う~ん、そうなった場合に備えて、友人知人を作っておくことは大切ですね。
社交性に乏しい私たちですが、終の棲家に引越した暁には、
ご近所さんとそれなりに親しい関係を築かなくてはと、思います。