ハンガリーとセルビアの国境に近いロズケ(Röszke)村で、泣き叫ぶ幼い息子を抱えて走るシリア出身の父親。
その場にいた女性カメラマンは咄嗟に足を出し、
父親を転倒させる。 もんどりうって倒れる父親。
この結果、顎と脚に痣ができた7歳の息子は、その後ショックから嘔吐したという。 父親も顎に痣をつくった。
女性カメラマンの暴挙の映像がネット上を駆けめぐると、強い非難の声が上がった。
その後彼女には、少年と少女を蹴るという “余罪” もあったことが判明。 (動画はこちら。)
この暴挙で世界的に有名になったのは、ぺトラ・ラズロ(?Petra Laszlo、40歳)。
極右政党Jobbik党(=難民受け入れに断固反対)が運営するネットTV局・N1TVのカメラ・ウーマンだった。
この出来事が公になると、N1TVは次のような声明を出して “受け入れ難い行為” を犯した彼女を解雇した。
"Today, a N1TV colleague behaved unacceptably at the Roszke reception centre.
The cameraman's employment was termminated with immediate effect."
他の政党は、ラズロの行為を犯罪として告発する可能性を追求している。
その後彼女はハンガリーの新聞紙上で、状況説明と謝罪をした。
「カメラが回っていたので、状況がよく見えていませんでした。
何百人もの難民が警察の制止線を突破して私に向かって駆けてきたので、恐怖のあまり私の中で何かがはじけました。
私を襲おうとしているとパニックし、自分を守らなければと思いました。
パニックした何百人もの人々が押し寄せてくるという状況下で適切な判断を下すのは難しいことです。
起きたことを申し訳なく思います・・・ 私の責任です。
私も母親ですから、私に向かって駆けてきたのが子供だったということを、特に申し訳なく思っています。
私は心ない、人種差別主義の、子供を蹴るカメラ・ウーマンではありません。
政治的魔女狩りの対象になったり、『殺すぞ』 と脅されるに値するような人間ではありません。
本当に申し訳ありませんでした。」
転倒させられた父親は、シリア出身のオサマ・アブデル・ムーセン(?Osama Abdel Muhsen)、52歳。
難民を受け入れてくれる西欧を目指す父子は国境で足止めされ、着のみ着のまま数日間野宿させられ、
業を煮やして同胞と共に、ハンガリー警官の制止を振り切って10km離れた国境まで進むことにしたという。
「前に息子がハンガリーの警官にわざとつまずかされたことがあったため、息子を抱えて走っていた。
でも今度のことに比べれば、あんなのは何でもなかったね。 突然脚が現れたと思ったら、地面に倒れていた。
あの脚が警官のものかもカメラ・ウーマンのものかもかわからなかった。」
12日間にわたる波乱に満ちたトルコからの旅のあと、12日(土)にドイツ入りした父子は、次男のモハメド(16歳)に迎えられた。
内戦と ISIS から逃れるため、シリアを離れてトルコ南部に移民したのは2012年の末のこと。
しかしトルコでの新生活は厳しく、次男(現在16歳)はドイツに向かった。
妻と長男(18歳)長女(13歳)を残し、父親もまず三男のザイド(7歳)を連れてドイツに向かうことにした。
「西欧に落ち着き次第、できるだけ早く妻と子供たちを呼び寄せたい。 自分たちと同じやり方ではなく、合法的なやり方でね。」
シリアではスポーツ教師を監督する仕事に就き、サッカーのコーチも務めていた。
そんな彼に、マドリッド南郊のヘタフェ(Getafe)の学校が、サッカーのコーチとしての仕事を提供。
家族のための住居も供給してくれるとのことだ。
アラビア語が話せるスタッフに伴われたモーセンは、二人の息子とともに16日(水)夜、マドリッドに到着。
「不運な出来事で図らずも有名になってしまったモーセンさん一家を歓迎します。
モーセン氏にはサッカーのコーチとしてお持ちの知識と経験を活かしていただき、
またザイドくんには地元のサッカー・クラブでプレイしてもらえたらと思います。
市は全力で、モーセンさん一家の移民要請をサポートします。」
と、ヘタフェ市長。
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まぁ~、なんて脚がはやい女性! (走る速さではなくて、「手が速い」 みたいなイミで。)
パニックした? 自分を襲おうとしていると思った? あの見事な脚さばきは、どう見ても 『防御』 ではなく 『攻撃』 ですよ。
しかも父子を転ばせたとき、周囲には十分にスペースがありました。 なのにわざと脚を突き出したんですからね。 弁解の余地はありません。
「私は心ない、子供を蹴るカメラ・ウーマンではありません」 と言われても、映像からはそうとしか見えないし。
お子さんには気の毒だけれど、彼女の解雇は自身が招いたもの。 (お子さんが学校で苛められなければいいけど。)
彼女には今後、人を蹴ったり転ばせたりする前に、よく考えて欲しいものです。
でも――文字通り、災い転じて福となる
トントン拍子に仕事と住居を提供されたモーセンさんたち。
今や、あの “ハンガリー人カメラ・ウーマン” に感謝したい気分では!?
モーセンさん一家が一日も早く、家族揃って暮らせますように!