5月26日(土)、午後8時頃。パリ北部18区、Rue Marx Dormoy。
集合住宅5階のバルコニーの手すりの外側に立つ子供と、その子を救助すべくバルコニーからバルコニーへと必死に登ってゆく若者が見られた。隣室のバルコニーからも男女が子供を救おうと試みるが、境界のボードが邪魔をして救助できない。

ニュース報道では「手すりにぶら下がる子供」なんて表現されているけれど、実際には子供は手すりの上端につかまり、足先は辛うじてバルコニーのフチに届いている模様。
驚くべき強靭さと敏捷性でもって瞬く間に子供に到達した若者は、無事子供をバルコニー内部へと救い上げた。動画はコチラ。

“ヒーロー” “スパイダー・マン” と賞賛される若者の正体は、マモウドウ・ガサマ(?Mamoudou Gassama)、22歳。彼は今朝(5月28日月曜日=事件の翌々日)マクロン大統領にエリゼ宮殿に招かれ、メダルと感謝状を贈られ、フランスの市民権を約束され、パリ消防団での仕事をオファーされた。
「歩いていたら、人々が叫び、車がホーンを鳴らしていました。何も考えませんでした。走って道路を横切って助けに行きました。助けることができて本当によかった。マンションの室内に入ったら足が震え出し、床にへたり込みました。」と当時の状況をガサマが説明すると、「ブラボー!」と大統領。

新天地を求めて昨年9月にマリ共和国からフランスに入国し、移民用のホステルに住んでいるガサマ。フランスに数多くいる、書類を持たないがゆえ滞在する権利も、住居や就労の権利もない移民のうちの一人だった。だから目立たないようにしているべきだった。が――バルコニーにしがみつく子供を見たら、体が勝手に動いた。
「(大統領から)プレゼントをいただきました。このようなものをいただいたのは、生まれて初めてです。とてもハッピーです。」
子供は4歳で、事件時母親はパリにおらず、父親は子供を一人残して外出していたという。子供は児童福祉サービスに保護され、父親は児童ネグレクトの容疑で一晩留置され、後日裁判にかけられることになった。
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なんともまぁ、素晴らしい運動神経!ほとんどの人がはらはらしながら見守るしかない中で、あっという間に子供にたどりついて救助した手際の良さ!一歩間違えば自分が先に死んでいたかもしれないというのに・・・すごい勇気。感服です。市民権を得るのも仕事を提供されるのも当然でしょう。彼なら頼もしい消防団員になること間違いないし。
その一方で、こんな意見もあります。
「他の誰もと同様私もガサマ氏の勇気を賞賛する。しかしながら、たとえ移民であっても、子供の命を救うため自らの命を危険にさらすことなく人間として扱ってもらえるような国となることを夢見る。」――ドキュメンタリー製作者のラファエル・グルックスマンという方がFBに投稿した意見だそうで、これにも納得です。・・・
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= = = 5月29日(火)追記 = = =
その後判明したところによると、あの子供が住んでいたのははじつは6階で、すでに6階から5階へと約4.5m落下していたそうです・・・
落下した4歳児がどうやってすぐ下の階のバルコニーにとっさにしがみつくことができたのかは不明ですが(本能?)。手の爪ひとつを失い、足指からは出血していたそうです。
子供の36歳の父親は、住居の窓(バルコニーに通じるフランス窓のこと?)を少し開けたまま買物に出、ポケモンGoをしながら帰宅途中にあの事件が起きたようです。窓にもバルコニーにも子供の転落防止用の安全措置は施されていませんでした。母親は6000マイル離れて住む両親に会いに里帰り中でした。「誰にでも起こり得たこと」と夫を責めるつもりはないそうです。
父親は現在監視下におかれ、9月25日の出廷が決まっていています。『親としての法定義務』を怠ったかどで、最長2年の禁固刑を受ける可能性があります。子供は母親と、レユニオン島で当面生活することになりました。レユニオン島(位置はココ)まではフランスからちょうど6000マイルくらいだから、母親の両親が住んでいるのはおそらくここではないかと思います。
・・・ガサマさんのおかげで子供が無事だったからよかったけど、もしあの子が転落死してしまっていたら、あの子のお母さん「誰にでも起こり得たこと」なんて悠長に言ってられなかったのでは? 「すぐ帰ってくるから大丈夫だろう」と油断したお父さんの気持ちもわからないではないけれど、4歳児は4歳児ですから。ほんと子供って、大人の予想を超えたことをしますからね。(オットーがしつこいほどに注意深い親でよかった。
) この事件が子供の安全確保に関してリラックスしすぎな親御さんたちへの警鐘になることを願います。
