私も知っているWL病院(Wotton Lawn Hospital)で去年7月9日に起こった、スタッフの殺害事件。 自分が知っている場所がニュースになるって、妙な感じだ。
事件が起きたのは、モンペリエ病棟(下左)だった。 「暴力性のある患者さんが収容されている病棟」と聞いていたので、私は一度も働いたことのない病棟である。
事件直後の報では、被害者のシャロン・ウォールさん(53歳のHCA=ヘルスケア・アシスタント) は「夜勤を終えたばかり」とされていたが、1月9日、犯人のライアン・マシューズ(62歳)
に判決が下った際の報では、シャロンさんは午前7時から始まる「早番勤務を始めた直後だった」とのこと。
その判決は、『仮釈放の可能性のない終身刑(Whole Life Order)』。 通常は終身刑を宣告されても、ある程度刑期をつとめれば仮釈放を申請できる。 しかし Whole Life Order がつくと、仮釈放は望めず、死ぬまで監獄で過ごすことを意味する。
判決後、妄想分裂病と反社会的人格異常を患うマシューズは、1982年5月27日に “スティーヴン・セシル・キング” の名で共犯者とともに二人を殺害し、さらに一人の殺害を企んでいたかどで有罪になり、1983年に終身刑を受けて “服役中” だったことが明らかにされた。その時の被害者は、マイケル・ブルック(38歳)とティナ・エラコット(16歳)という父娘だったという。
以来マシューズは刑務所や、重度の精神疾患や人格障害を患う重犯罪者を収容するブロードムア病院を含む精神病院を転々としてきた。 投薬の効果で症状が落ち着いたためWL病院に移されてきたのは、2012年8月。 マシューズを社会復帰させるプロセスが始まっており、シャロンさんを殺害した日は、カーディフにある別の病院 Ty Catrin に移されることになっていた。 しかし喫煙禁止で Wi-Fi 設備もないこの病院に移ることをマシューズは嫌悪し、 「あそこに行くよりは刑務所に行った方がましだ」 と周囲に漏らし、事件前日には興奮してスタッフに 「絶対に行かない」 「(行かなくて済むよう)ものすごく暴力的なことをしてやる」 との脅し文句を吐いたという。 犯罪を犯せば、行きたくない病院に送られる代わりに刑務所に行ける――「動機はそれだった」 と、判事。
凶器となったナイフは、スーパーのチェーン店・セインズビュリーズで売られている、£3(¥540)の刃渡り8cmほどのキッチン・ナイフ(下は同等品)とのことである。
シャロンさんが殺害された朝。 マシューズが犯行前に喫煙所でタバコを吸う姿が、防犯カメラに捕えられていた。 このすぐ後の午前7時30分頃、マシューズはナイフで廊下にいたシャロンさんの背中を二度刺して殺害した。
動画はこちら。
シャロンさんを刺したマシューズは自室に入ってナースコール・ボタンを押し、他のスタッフを呼んだという。 早番で出勤したシャロンさんは、申し送りが済んだ直後に一人で患者さんたちの見回りを始めたらしい。 見回りは二人で組んですることになっていたため、シャロンさんがなぜ一人だったかについて現在も調査が続いているそうだ。
WL病院を運営する 2gether NHS Foundation Trust の最高責任者であるショーン・クリーは、 「凶器の入手経路はまだ判明しておらず、永久に判明しないかもしれない」 し、 「犯行は予測することも防ぐことも不可能だった」 としているが、別のニュース源では犯人マシューズの取り調べに対する供述として、こう発表している。 「凶器のナイフは、2013年11月頃にスタッフに付き添われてグループで町に出た際に、自衛のため秘かに買い求めた。」
ちなみにショーン・クリーといえば、あの無神経なボス。 あれ以来私、あのおっさんには(同年代ではあるけど)一片の尊敬心も信頼も持てないから、この事件の責任を取って降格させられればいいのに、とすら思っちゃう。 (ヒガミ・ヤッカミゆえですが・・・)
職場の噂として事件後に私が聞いた話では、 「犯人は別の病院に移されるのが絶対に嫌だったので、あの日最初に見た人間を刺す決心でいた」。 また 「凶器はグループで町に出たとき、短時間行方をくらませて秘かに買い求め、素知らぬ顔で隠し持って病院に持ち帰った」。 とのことなので、マシューズの供述と一致している。
犯行は予測することも防ぐことも不可能だった・・・ 本当にそうだろうか? ショーン・クリーによると、「事件後病院における(刃物の)捜査手順は強化された」 とのことだけれど、それがどの程度効果があるのか疑問だ。 小さなナイフなんて、簡単に隠せる。 でもしつこく探せば、患者とスタッフの間の信頼関係が崩れてしまう。 かといって、身の危険を心配しながら働かなければならないなんて嫌だし・・・・・
犯人も犯人だ。 別の病院に行くのが嫌だからといって、なにも殺さなくても。 刑務所に逆戻りするなら、怪我をさせるだけで十分だっただろうに。 こういう時、“精神疾患” は万能の言い訳になってしまうのだろうか。 精神疾患のせいで他人の心・他人の痛みがわからないから、何をしてしまっても仕方がないのだろうか。 私たちは、犯人がしたことを 「病気のせいであって本人のせいではない」 と受け入れなければならないのだろうか。
“たまたま” マシューズがあの朝目にした最初の人間になってしまったため、命を落としたシャロンさんの、ご冥福を心からお祈りします。 ・・・・・