《 ① からのつづき 》
[ 2017年1月の時点での、カリー一家の年齢:
ロジャー・カリー氏76歳、妻メアリー・ジョー65歳、息子ケヴィン36歳、娘ジアネット27歳 ]
元スーパー従業員のケヴィンは一児の父親で、過去に4度、禁固刑を受けている。
犯した罪は、武器を使った襲撃、家庭内暴力、空巣、詐欺行為など。
自分の子供の母親とはすでに別れているようで、2007年には月額$283の養育費不払いにより訴えられた。
父親カリー氏は2000年2月に、息子ケヴィンに対する接近禁止令を裁判所から取りつけていた。
接近禁止令を申請するためにカリー氏が手書きで記述した、ケヴィンから受けたという脅しや暴力。
『2000年2月12日: ケヴィンが私の家に来て、“住むためにここに戻りたい”と言った。私は彼に“ノー”と答え、2月8日に自分でサインした合意書のことを思い出すよう言った。ケヴィンは両腕と両手を使って私を窒息させ、私を“めちゃめちゃにしてやる”し、“殺す事だってできる!”と言った。警察を呼んだが、ケヴィンは警察が到着する前に消えた。ケヴィンはその後も二度私の家に来た。私は寝室に錠を下ろして避難した。二度とも警察が呼ばれた。妻と娘が目撃していた。』
その後認知症を発症したらしいカリー氏・・・・・。
高齢になった近親を棄てることは、『グラニー・ダンピング(婆棄て)』と呼ばれ、アメリカでは耳新しいことではない。
高額な医療費の支払いを避けるためだ。
BBCレポーターのマッキンタイヤーはケヴィンとコンタクトを取ろうと試みたが、ことごとく失敗に終わった。
しかしながら、彼の妹のジアネットを見つけることには成功した。彼女はもう何年も、家族とは疎遠になっていた。
父親のことを聞いたジアネット(27歳)は悲しみ、父親がイギリスに遺棄されたことはまったく知らなかったと言い、
それはケヴィンの仕業である可能性は十分あると考えた。
しかしながら彼女の最大の心配は、イギリスで『元気に安全に』暮らしている父親が、ロサンゼルスに返還されることだった。
イギリスの関係機関に最新情報がもたらされ、2016年4月半ば、英国サマーセット州トーントンの男性が逮捕された。
アメリカの福祉サービス機関とFBIが捜査に加わった。
2016年7月、ロジャー・カリー氏は過去8ヶ月間暮らしたヘリフォードの老人ホームを離れ、ロサンゼルスに戻った。
マッキンタイヤーは、数ヵ月後、カリー氏を訪ねてロサンゼルスに飛んだ。
カリー氏は元自宅から数マイルの老人ホームに入居していたが、マッキンタイヤーは危うく彼に気づかないところだった。
彼は不潔で、身なりを整えられておらず、マッキンタイヤーが覚えていたより痩せていた。
頭頂部には、切り傷らしきものもあった。
二度目に彼を訪れたときはましだった。彼は髭を剃られ、清潔さも保たれていた。
しかしながら二度とも、マッキンタイヤーが建物に入るとき、何のセキュリティー・チェックもなかった。
(あれではカリー氏がふらりと外に出てしまうこともあるだろう)――マッキンタイヤーは心配になった。
カリー氏の元自宅で、マッキンタイヤーはケヴィンを見つけた。ケヴィンは最初は逃げて損壊した家屋に隠れたが、
のちに質問に答えることに同意し、カメラ禁止を条件に、マッキンタイヤーをフェンス内に招き入れた。
ケヴィンは「自分は父親の遺棄にはまったく関係がなく」、「イギリスでホリデー中に父親が病気になったため、
知人に父親を病院に連れて行くよう頼んだ」という、意味をなさない説明をした。
それが真実なら、なぜ彼は、その後の父親の行方を探さなかったのだろう?
フェンスの外に出るとき、ケヴィンは顔を隠すようにジャケットを引張り上げた。マッキンタイヤーは彼に、
一度きちんとインタヴューを受けるよう要請したが、彼はマッキンタイヤーが嫌がらせをしていると非難し車で去った。
非常にゆっくりと。
顔を隠していたため前がよく見えなかったからだが、「それは最も奇妙なゲットアウェイだった」。
カリー氏の今後は、ロサンゼルスの関係機関の手に委ねられた。
その後の調べで、カリー氏は妻と息子との3人で2015年11月にイギリス入りしたことがわかった。しかしアメリカに戻ったのは二人だけ。
高齢で社会的弱者でもある男性が、家族によって自宅から5330マイル離れた異国の地に遺棄されたことになる。
情報源は明らかになっていないが、“法廷書類”によると:
その後の調べによると、ロジャー・カリー氏は、有資格ナースとして勤務したカイザー・パーマネンテ病院を退職した。既婚の彼の妻はメアリー・ジョー・カリー。二人の間には、ケヴィン・カリーとジアネット・カリーという二人の成人した子供がいる。ジアネット・カリーはロサンゼルスに住んでいるが、父親の件に関して巻き込まれることを断った。メアリー・ジョーの兄弟ティム・オッターズは義兄(義弟かも=カリー氏のこと)を助ける気はなかったが、当局に『(カリー氏の)妻と息子が(カリー氏に関する)責任者』と告げた。医療記録によると、カリー夫人とケヴィン・カリーは過去に何度か、ロジャー・カリー氏をネグレクトした疑いがあることがわかった。ホームレス状態になる懸念も報告されている。医療記録はまた、カリー氏はアルツハイマー病を患い、すべてにおいて介護を要するとしている。
ケヴィン・カリーとその母親=カリー氏の妻メアリー・ジョー。(手前の顔がぼかされている女性はケヴィンの現カノ?)
さて“カリー氏置き去り計画”には、その後の捜査で、イギリス側に協力者がいたことがわかった。
“病的嘘つき”サイモン・ヘイズ(53歳)。今年4月末、詐欺行為と捜査の撹乱のかどで、2年半の実刑判決を受けた。
時は2015年秋。
ケヴィン・カリーから連絡を受けたヘイズ(サマセット州トーントン在住)は、何度も彼とテキストや電話をやり取り。
2015年11月5日にケヴィンが母親と父親を伴ってロンドン・ガトウィック空港に現れたのを出迎えた。
11月7日午後4時20分頃。
偽の軍服を身につけアメリカのアクセントを真似たヘイズは、ヘリフォード病院に隣接したバス停の駐車場にカリー氏を
連れて行き、看護師、のちには救急救命士に、「田舎道でこの老人を見つけた」と申し出た。
しかし「自分は近くのキャンプで特殊空挺部隊(SAS)の任務についているため身元を明らかにできない」と
連絡先を渡すことを拒んで立ち去った。
そのため彼にカリー氏を託された看護師が、その後警察に疑われる羽目になる。
カリー氏を遺棄したへイズは、フランスとコペンハーゲンでホリデーするケヴィンとその母親に合流した。
しかしながら、未だ明らかになっていない理由で、その後へイズは『カリー氏を医療従事者に託した人間』として警察に名乗りを上げた。
もし彼が名乗りを上げていなかったら、彼の正体は不明のままだった可能性は大きい。
ヘイズは過去にロサンゼルスに住んだことがあり、そこでケヴィンと知り合った。
しかし飲酒運転で有罪となり、2013年1月に米国から強制出国させられた。
2014年、2015年、2016年と3年連続で米国ビザを申請したものの、失敗に終わった。
アール・ロジャー・カリー氏はアルツハイマー病を患う76歳男性である。2015年の終わり近くにカリー氏は、妻メアリー・カリーと息子ケヴィン・カリーによって、不正に英国へと連れ出され、田舎に置き去りにされた。赤の他人であるサイモン・ヘイズ氏が彼を見つけて通りがかった救急車に知らせた。カリー氏はイングランドのヘリフォードで入院した。病院のスタッフは彼の身元確認に努力した。アクセントから、彼はアメリカ人かカナダ人と思われた。
地元警察はヘイズ氏の供述を追及した。ヘイズ氏は、カリー氏を発見したというのは嘘だったと告白した。彼によると、カリー氏は英国で入院させてもらえるよう、妻のメアリーと息子のケヴィンによって英国に連れて来られた。ヘイズ氏によると、『町でさまよっているロジャー・カリー氏を見つけた』と申し立てるよう指示したのはケヴィン・カリーだった。ロジャー・カリー氏の身元が確認されると、彼を米国へ送還する手配がされた。ロジャー・カリー氏は、2016年7月14日木曜日にロサンゼルスに着き、カイザー・パーマネンテのケアに委ねられた。
ヘイズの供述は二転三転した。カリー氏を見つけたという場所を変えたり、
じつはカリー氏を見つけたときは「カナダ人の軍人と一緒だった」と言ったり、
「過去に特殊舟艇部隊(SBS)に属していた」「カリー氏発見当時はSAS基地で訓練中だった」と言ったり。
エリート軍人だという彼の供述は、その後の調べで全て偽りと判明した。
実際の彼は元海兵隊員で、事件当時はフィットネス・インストラクターだった。
この件は、状況からみて仮の成年後見制度の確立を要する。しかし彼の家族は誰も、彼に関する責任を負おうとしない。彼の妻と息子は彼を海外に連れ出し遺棄した。彼は明らかに、自分の健康、食べるもの、着るものそして安全な居場所を自力で確保できる状態にはない。その結果Public Guardianは、アール・ロジャー・カリー氏本人とその財産の、一時的な保護者としての任命を求める。
ケヴィン・カリーについては、高齢者虐待・詐欺行為・誘拐の容疑で現在も捜査中。
現在のケヴィンは妹ジアネットから接見禁止令を出され、
父親ロジャー・カリー氏にも、二人きりで会見することは許されていない。
* * * * *
18歳当時のカリー氏。端整な大人びた容貌ではありませんか。
まさか半世紀以上あとに、家族によってイギリスに置き去りにされニュースになるなんて・・・、想像もしなかったことでしょう。
無責任息子のケヴィン、NHS(国民保険サービス)のあるイギリスなら、面倒みてくれると思ったのか。
イギリスの公的介護サービスだって、それはそれは厳しい、瀕死の状況にあるんですけどね!
残念ながら、カリー氏の息子は真っ当に育たなかったようです。娘さんが疎遠になったのも、それが主な原因でしょうか。
カリー氏の妻メアリー・ジョーは、カリー氏の遺棄にどの程度まで関与していたのか。
カリー氏が認知症で頼りにならなくなり、息子に従うしかなくなったための消極的関与?
それとも、カリー氏の介護に多額の資産を使いたくなくて、カリー氏遺棄を積極的にサポートした?
4年ちかく前の “事件”。現在のカリー氏は78歳か79歳のはず。
Public Guardian (という公的機関?)が、ロジャー・カリー氏自身とその財産を保護するため
成年後見人認定を求めているのは、喜ばしいことです。
カリー氏が安全に、平穏に、ロサンゼルスの老人ホームで暮らしていることを祈ります。・・・・・