赤い公衆電話ボックスの設計者について書いたとき、テート・モダンが登場しました。
そういえば去年テート・モダンで怖ろしい事件が発生していたので、今回はそれについて書くことにします。
上の画像の向かって右手背後に立ついびつ(シツレイ)な建物は、2016年6月にオープンしたという増築部分『スイッチ・ハウス』(高さ65m)。
ちなみに『スイッチ・ハウス』は2017年5月に正式に名称を変更され、『ブラヴァトニック・ビルディング』と呼ばれるようになったそうです。
増築のために巨額の寄付をしてくれたウクライナ生まれの米国人実業家 Len Blavatnik の名をとって。
ブラヴァトニック・ビル10階の外側は展望バルコニーになっていて、ロンドンの眺望を楽しみながら、ぐるりと一周できるようになっているそうです。
事件が起きたのは、2019年8月4日(日)、午後2時40分頃。
10階の展望バルコニーにいた若い男が突然、家族と一緒にいた6歳の男児を掴み上げ、手すり越しに投げ落としました。
約30m落下した男児は、本館との接続部分の屋根に打ちつけられました。
「息子が!息子が!」とパニックし悲鳴を上げる母親。若い男は目撃者に殴られ床にねじ伏せられたあと、駆けつけた警官によって
本人の保護のためトイレに監禁されました。男は無表情・無抵抗で、落ち着いた様子だったそうです。
(1) 自閉症のジョンティー・ブレイヴェリー、テートの10階にある展望バルコニーで11歳と8歳の少年たちにつきまとったあと、6歳のフランス人少年に狙いを定める
(2) 掴み上げ放り投げられた6歳男児は30m落下。脳、両腕、両脚、背中を損傷する。
(3) 「お前は気違いか!?」被害児の父親がブレイヴェリーに詰め寄ると、「そうだ、俺は気違いだ」とブレイヴェリー。
母親が悲鳴を上げ、ブレイヴェリーは彼女を見て“大きく微笑む”。
(4) 救急ヘリコプターが着陸すると、抗精神病薬を服用中ながらも単独での外出を許されていたブレイヴェリーは、
にたつきながら「俺は誰かを殺したかい?俺は人殺しか?」と警備員に訊く。
展望バルコニー、普段はこんな 感じのようです。手すりは、大人の胸の高さまでありますね。
殺人未遂で逮捕された犯人は、当時17歳10ヶ月だったジョンティー・ブレイヴェリー。
事件当時は未成年だったため身元は伏せられましたが、2ヶ月後に18歳になった時点で公表されました。
被害児とは接点も面識もまったく無く、被害児はただ無差別に選ばれました。
逮捕されたブレイヴェリーは、「誰かを投げ落としてニュースになるためにロンドンに来た」と供述。
子供二人を連れて展望バルコニーにいたある母親は、プレイヴェリーがあまりにも挙動不審だったため、
意図的に子供たちを連れて彼から遠ざかったそうです。
動機は:
カウンシル(=地区自治体)のケア下にあるという自分の置かれた状況に嫌気がさしていて、刑務所に送られたかった。
重罪を犯してニュースになることで、両親を含む皆に、自分を病院に入れなかったのは過ちだったと気づかせたかった。
ブレイヴェリーは2001年10月2日に、会社重役の父親と元スチュワーデスの母親のもとに生まれました。
しかし彼が3歳のときに両親は離婚、その後それぞれが別の相手と再婚しました。
自閉症をもって生まれた彼は強迫性障害と人格障害を患うようになり、成長するにつれて
攻撃的になったため家族との生活が困難になっていき、とうとう16歳だった2017年に、
精神保健法に基づいて強制的に家を離れさせられ、カウンシル(地区自治体)のケアに委ねられました。
彼のケアはハマースミス&フルハム・カウンシルの責任となり、彼はロンドン北西部ノーソルト(?Northolt)にある
フラットで暮らし始めました。当初はブレイヴェリーは常時サポートされ、外出する際はリスク・アセスメント遂行のうえで
二人のヘルパーが付き添っていました。
ヘルパーのオリー(仮名)によると、カウンシルと契約を結んだスペンサー&アーリントン社がケア・サービスを
供給するようになったのは、2018年夏のこと。
ブレイヴェリーには6週間に一度の頻度で、ヘルパーに突如襲いかかる傾向がありました。
それにもかかわらず2019年春からケア・プランが変更され、4時間までの外出なら単独で出かけていいことに。
それゆえヘルパーたちは事件を「起こるべくして起きた悲劇」と感じたそうです。
またヘルパーたちは、自分の思い通りにならないと攻撃的になるブレイヴェリーには
「『決してノーと言わないこと』とケア・プランにも明記されていた」とも証言。
そのためヘルパーたちは、彼が寝坊しても起こさず、彼が万引きしても止めずにいて、あとから店に支払いをしました。
彼の隣人は、彼が裸で外を走り回ったり、部屋の窓から外にゴミや糞便を投げ捨てるなどの奇行をしていたと証言。
事件当時もブレイヴェリーは、ヘルパーへの襲撃と人種差別により逮捕され、保釈中の身でした。
事件の前年だった2018年秋、ブレイヴェリーはヘルパーのオリーに、「人を殺したい」と話していました。
「ロンドン中心部に行って、ザ・シャードみたいなどこか高い観光名所から誰かを突き落としたい」との具体的な内容も。
懸念したオリーはもう一人のヘルパーとともにブレイヴェリーとの会話を録音し、上司他一名に聞かせたそうです。
Audio recording of Jonty Bravery telling carers in autumn 2018 about his plan to commit murder
が、上司他一名は、それを否定しているということです。
事件当日はまずザ・シャードに行ったものの、34ポンドという入場料に驚いて予定を変更。
通行人に「次に高い観光名所」を訊いて、無料で上れるテート・モダンの展望バルコニーに向かいました。・・・
スペンサー&アーリントン社は事件後、
・ 録音についてはケア・プランにもケア・レポートにも一切書かれておらず、報告されていなかったと信じる
・ ブレイヴェリーがヘルパーに殺人計画を打ち明けたという証拠は全くない
と発表しています。
事件後も悔恨の素振りはまったく見せず、それどころか被害男児が死亡しなかったことに失望したというブレイヴェリー。
精神分析医はその報告書で、
『ブレイヴェリーの人間性と共感性の驚異的な欠落は自閉症には起因せず、精神病質の典型とみられる』
としました。
殺人未遂で起訴されていた彼は、今年6月、懲役15年の刑を宣告されました。
・・・こんな他人の痛みがわからないサイコパスの危険人物なのに、15年って短くない!?
コイツ、社会復帰したら、また同じことをしませんか?
被害男児が命を取り留めたのは、奇跡でした。5階の屋根部分に落とされたからまだ良かった。
もし10階下の地面に叩きつけられていたら、まず助からなかったことでしょう。・・・
事件に関する画像をググっていて出てきた、犯人ブレイヴェリーの子供時代の画像です。
最初、被害男児のものかと思いました。(被害男児のものは、身元も画像も一切、公表されていないようです。)
犯人の父親は、自閉症をもつ息子がお世話になった施設のために募金活動をしたりと、息子を熱心にサポートしたそうです。
なのに、こんな風にごく普通の子供だった犯人が、(幸い未遂で終わりましたが)怖ろしい殺人を犯すようになるなんて・・・
私が昔サポート・ワーカーをしていた時、仕事先だったグループ・ホームに自閉症の成人男性Nさんがいました。
物事にものすごくこだわったり人の話に耳を貸さない一面はありましたが、基本的にはNさん、朗らかで話好きで好感の持てる人でした。
この犯人のようなとんでもない奇行に及ぶこともなかったし、攻撃性を見せることもなかったし。
だいいちそんな相手とは、私は働けません。怪我させられる前に、逃げるが勝ちです。
犯人は自閉症だったと報道されていますが、自閉症は関係なかったと言っていいと、私は思います。
それにしても、いったいどうすれば、この事件を未然に防ぐことができたのか・・・・・
被害者は、一家でフランスから一週間のロンドン観光に来て4日目だった6歳男児でした。
落下の途中でビルの斜面にぶつかったため速度が多少和らげられ、奇跡的に一命を取り留めました。
しかしながら頭部、両腕、両脚、腰に重傷を負い、右足首は『ほとんど取れかかっていた』そうです。
両親はエレベーターで息子の元に駆けつけ、父親は救急隊員が到着するまで息子の手を握り締めていました。
男児は救急ヘリで病院に救急搬送されましたが、日常生活を激変させられる怪我を負い、
事件後の一ヶ月をロンドンの病院で過ごしたあとフランスの病院に転院しました。
『少なくとも2022年までは、24時間介護が必要』とのことです。
被害男児の治療とリハビリのためオンライン募金 GoFundMe が立ち上げられ、
今年夏の時点で24万ポンド(3300万円)が集まりました。
続報によると、被害男児は今年1月は、まだ立つことはできないものの左手を開けられるようになりました。
この夏は事件後はじめて家族と海辺に出掛け、砂でお城を作ったそうです。
またこの夏、『サポート無しで立っていられるようになった』との嬉しいニュースも。
被害に遭った男児が一日も早く元通りになるよう、祈ってやみません。
日本でも長崎で、12歳の少年が幼い男児(たしか4歳?)をビルの屋上から投げ落として殺害するという事件がありましたっけ。
2003年・・・もう17年も前の事件だったんですね・・・。幼い命を奪われた被害者のご冥福を祈ります。
あの事件の犯人は、今は29歳か30歳になっているはず。今この瞬間、どこで何をしているのか・・・
しっかりと更生して、二度と他人に危害を加えないような真っ当な人間になっていることを切に願います!